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仕事内容
執筆者:安藤 タグ: サウンドクリエイター

『星のカービィ Wii デラックス』の仕事 サウンドクリエイター編

©HAL Laboratory, Inc. / Nintendo

こんにちは、サウンドクリエイターの安藤です。
『星のカービィ Wii デラックス』では、リードミュージックを務めました。
今回は、『星のカービィ Wii デラックス』の制作をとりあげながら、我々サウンドスタッフの仕事について、いくつか書いてみます。

多くの方はサウンドの仕事と言えば、真っ先に音楽制作(曲づくり)が思い浮かぶと思いますが、何千もの効果音や、キャラのボイスを鳴らすほうが作業としては重たく、大変だったりします。
ゲームで鳴る全ての音は、そのゲームの良い雰囲気を醸しつつ、ゲーム全体としても統一感を保つように「音のルール」作りをした上で、風味を揃えたり、「どんなタイミングや音量、仕掛けで鳴らすのか」を設計したりして、作った音が意図通りに鳴るようにプログラマーたちと共に実現させる必要があります。
そして、それらの「実際に音を作る以外の設計作業」も、専門の知識や経験、センスを要する「重たい」仕事なわけです。
ですから、サウンドの仕事を紹介したり、サウンドクリエイターを募集するにあたって「空気を震わせるだけの、カンタンなお仕事です!」などと言えればいいのですが(笑)、現実は、なかなか厳しいものがあります。

……と、ここまで書いておいて言うのも何ですが、今回は私、効果音やボイスについてのメインの作業は他のスタッフに任せて、音楽制作の作業を中心にしています。
数年前からの何作かでは、私のスタッフクレジットでの肩書は「リードサウンド」でしたが、「総合的に全部の面倒を見る役」からは降りて、音楽作りを中心にやっていく「リードミュージック」というポジションになった、という感じです。
その理由は二つあります。
一つは、私は今作のオリジナルとなる『星のカービィ Wii』のサウンドも担当していたのですが、その当時と比べて、今ではサウンドスタッフも増員され、ある程度の「分業」も必要だと思える程度にソフト開発の規模が大きくなっているということ。
そしてもう一つは、『星のカービィ Wii』の発売から約11年が経って、私自身も結構歳を重ねており、先を見据えると、中心的な役割は新しい世代のメンバーに担当してもらうのが流れだろうとも思うからです。
(もちろん、これからサウンドクリエイターとして入社される方にも期待しています)

©HAL Laboratory, Inc. / Nintendo

さて、今回、『星のカービィ Wii デラックス』の本編に関しては、オリジナル版の『星のカービィ Wii』の音源をほぼそのまま使っています。
WiiからNintendo Switchへとハードウェアが変わっただけでも単純に音は良くなるのですが、それに加えて音源そのものも全曲、音質を再調整しています。
リニューアルに伴ってアレンジしなおす、という手もありましたが、オリジナル版のらしさを残し、音質面から新しさを楽しんでもらいたいという考えから、当時の音源で統一することにしました。

新しく作った曲の多くは、オリジナル版にはない新要素である「わいわいマホロアランド」と「マホロアエピローグ」で登場します。
特にマホロアエピローグの各ステージBGMは、世界観の設定がずっと異空間なので、それぞれの音楽の方向性を決めるのが難しかったです。
「世界観」というのは、クリエイターならば誰もが重視するキーワードだとは思うのですが、 私は、世界観とはクリエイターが「作るもの」というよりは、ゲームを遊ぶ人が頭の中で独自に作るイメージのことだと思っています。
なので、クリエイターの仕事って、世界観作りというよりは「ユーザーがイメージを作りたくなるように材料を並べてあげること」に近いんですよね。
音楽で言えば、「どんな音を、どんなタイミング、どんな風に並べたら、聴く人の意識がどんな反応をして、結果的にそのステージに対してどんなイメージを持つようになるのか」を想定しながら音を仕掛けていく作業のことだと思うわけです。
この「実は世界観を作っているのはユーザーのほうなのだ」ということは、かなり大事に考えていつも作っています。
一方、技術的に苦労したことと言えば、たとえばスタッフクレジットの曲は、構成の都合で常にテンポが大きく変わりまくる曲となり、自然な感じに聴こえるように調整するのが大変でした。

また前述した通り、今作では私の関わりは少なめではありますが、効果音やボイスのほうも頑張っています。
『星のカービィ Wii』で使用していたサウンドのシステムは10年以上前のものだし、そもそも今作はハードウェアも違うので、それらサウンドデータの構造や鳴らす仕組みはもはや全く違い、当時のデータをそのまま鳴らすことは(技術的には不可能ではありませんでしたが)しませんでした。
これらは、オリジナル版と全く同じに聴こえるような音であっても、それは「同じように聴こえるように仕込んだから」なわけで、その一つ一つにかなりの手が入っていますし、サウンドの設計の思想も進化してきているので、違う音に作り直した部分も結構あります。

このように「当時のなつかしさ」と「新しさ」の混ざり具合により出来上がった『星のカービィ Wii デラックス』独特の雰囲気や良さというのが感じられたら、制作側としても幸いなことです。

最後に、このブログを読んでくださっているかたの中には、 サウンドに限らず、クリエイターを目指している人が大勢いるかと思います。
そして、 日々の勉強や鍛錬は、きっとモノを作るための技術や知識の習得にあるかと思います。
でも、本当に大事なのは「作ること」よりも、 何かを作る以前の「何を意識させたくて、どんなモノを作るのかを考える」という「企画」の意識の程度や有無にあると思います。
人がお金を払ってでも欲しがるようなモノを作るプロの仕事の大半は、そうした「企画の意識」で作られていると思いますので、そのあたりを意識してみるとよいのではないでしょうか。
新しいクリエイターと一緒に仕事できる日を楽しみにしています。
頑張ってください!