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執筆者:大原 タグ: サウンドクリエイター

『星のカービィ 30周年記念ミュージックフェス』を振り返って サウンドクリエイター編

©HAL Laboratory, Inc. / Nintendo

こんにちは。サウンドクリエイターの大原です。
8月11日に開催した『星のカービィ 30周年記念ミュージックフェス』。
会場に足を運んでくださった方も、配信を観てくださった方も、ご参加いただき本当にありがとうございました。
舞台袖から会場のペンライトが煌びやかに揺れているのを見て、みなさまが楽しんでくださっている様子を肌で実感することができ、胸が熱くなりました。

今回私は、音楽面でのメインスタッフとして携わりました。
今回の編成が決まるまでの経緯や、編曲中のエピソードなどを、サウンドスタッフ目線でお話したいと思います。

まず編成が決まった経緯についてですが、検討段階の大きなテーマとして「25周年オーケストラコンサートとの違いを出すこと」を第一に掲げていました。
そしてもうひとつ「原曲の良さをなるべく再現できる編曲にしたい」という方向性も考えていました。
カービィの楽曲は、スピーディ・エネルギッシュ・パーカッシブ・可愛らしさ……など、さまざまな要素を兼ね備えていることが特徴であるのですが、このさまざまな要素すべてを生演奏でもなるべく再現したい!という強い想いがありました。
そこで思いついたのが、オーケストラサウンドとの違いを大きく感じられるブラスが主体のビッグバンド編成。
これをベースに、カービィの楽曲で多く使われる弦楽器、シンセサイザーなどをプラスし、生演奏でもさまざまな選択肢からカービィサウンドを再現できる、今回の贅沢な大編成に決定したのです。

編曲に関してですが、今回は3つの軸を意識して編曲を行いました。
「お客さまが喜んでくださる編曲であること」「熊崎ディレクターが納得する編曲であること」「奏者の方々が楽しんで演奏できる編曲であること」です。

まず「お客さまが喜んでくださる編曲であること」に関して。
カービィの楽曲は既に編曲されてきた曲も多くあるので、まず過去の編曲されたバージョンを聴き、同じ雰囲気の編曲にならないよう心がけました。
今回のフェスならではのサウンドを楽しんでいただくためです。
また、原曲の雰囲気を重視する曲と、逆に雰囲気をガラっと変える曲とを吟味することも意識しました。
「09:カービィのクライマックスバトルフェス」に出てくる「CROWNED」に関しては、期待値も高い人気曲であり、また、原曲の雰囲気を好んでいるお客さまが多いと思ったので、できるだけ原曲の雰囲気を残した編曲にしました。
反対に、その次に流れる曲「狂花水月」は、原曲とは少し違ったジャジーな雰囲気のアレンジにすることで、メドレーの中でも飽きを感じさせないようなワクワク感を感じていただけるよう意識しながら編曲を行いました。

次に「熊崎ディレクターが納得する編曲であること」に関して。
我々サウンドスタッフは編曲する際に「この曲はこういう編曲にした方が音楽的に良い」「このメロディはこの楽器が演奏した方が映えるから、この方向性でまとめよう」というように、音楽的な視点での判断で編曲を行います。
その編曲の方向性が「ファンの方が納得してくださるものであるか」に関しての最終的な判断は、熊崎ディレクターに任せていました。
監修を受ける中で、「この曲はもう少し原曲のこの雰囲気を残してほしい」「ここのアレンジはもう少し原曲から離れても大丈夫」といった落としどころを聞きながら、最終調整し、まとめていきました。
1つの曲に対して、それぞれの立場からの視点・考え方を活かして編曲を行えた環境が、良い結果に繋がったのではないかと感じています。

最後に「奏者の方々が楽しんで演奏できる編曲であること」に関して。
奏者の方々が気持ちよく楽しく演奏できる編曲であることは、ライブ演奏において一番と言って良いほど重要です。
奏者の方々が「ここぞ!」というところで気持ちよく演奏できるような編曲になるよう、そしてそのためには無理をさせてしまう編曲にならないようできる限り意識しました。
「05:騎士達の逆襲フェス」では、ブラスの方々にはお休みいただき、1st.トランペットのみ演奏という、他の曲とは違う編成にしました。
この理由ですが、まず原曲がロックサウンドだったので他の楽曲と違う雰囲気を出したかったこと、次にメドレー最後の曲「バルフレイナイト」の原曲にあるトランペットのメロディを際立たせたかったことがありますが、一番の狙いはブラスの方々の体力を考え休息の時間を取ることでした。
(1st.トランペットの方は、他の楽曲でなるべく体力を温存できるよう、できる限りお休みいただくような編曲にしていました)
ただ、ブラスの奏者の方々が、この曲でペンライトをガンガン振ってくださっていたので、あまり休息にはならなかったかもしれません……(笑)

©HAL Laboratory, Inc. / Nintendo

今回なによりお伝えしたいのが、このフェスで作りだされたサウンドは、編曲者だけの力ではないということです。
楽譜に書いてある音だけで今回の演奏が成り立ったわけではなく、楽譜には書いてない場所に楽器をチョイスしながら追加でリズムを入れてくださったり、こちらでは提案できないようなドラムパターンを入れてくださったり、ハイトーンで演奏してくださったり、演奏しづらい場所を事前にアドバイスしてくださったりなど……奏者の方々が本番ギリギリまで、良い音楽になるようにさまざまな提案をしてくださったからこそ、実現したサウンドだったのです。
一流ミュージシャンの方々の素晴らしいセンスを目の当たりにし、私にとって大変勉強になる現場でした。

想いがあふれすぎて、まだまだお伝えしたいことがたくさんありますが、長くなってしまうのでこのあたりで(笑)。
今は無事に終わりホッとしている気持ちと、終わってしまった寂しさで、しばらくこの余韻から抜け出せなさそうです。
今後もいろいろな形でカービィの音楽をみなさまに楽しんでいただけるよう、日々、音と向き合いながら、新たな挑戦をし続けたいと思います。
ありがとうございました。