TOP会社を知る犬たまご犬たまごができるまで

犬たまごができるまで

谷村
ハル研のマークを作ろう、ということで最初に糸井さんにご相談うかがったのは、去年(1998年)の7月でしたか…。
糸井
ええ、7月か8月でしたね。
谷村
それまでもハル研のマークというのはあったんですが、それはメッセージ性のあるものではなかった。ユーザーはウチが開発したゲームで遊んでいても、「任天堂が開発したゲームだ」と思って遊んでいると思うんですよ。で、このままではダメだ、と。商品を通じて、もっとハル研を知っていただくには、私達のポリシーとか考え方とかをきちんと表現したシンボルマークが必要だと感じたんです。インパクトのあるシンボルマークをゲーム画面に登場させることで、「ハル研が開発したこと」を意識してもらえるのではないかと。それで前社長の岩田と話し合った結果、糸井さんに相談しよう、ということになったんですよね。

糸井
かっこよくというと「ブランド戦略」ですよね。この印がついていれば間違いない、という。過去に大ヒットゲームがあったとして、あの○○を作った会社の新ソフトという売り方でもいいんですが、それだと前のとぜんぜん違うタイプのものを作ったときに違和感がありますからね。あと、時期的なことでいえば、ハル研がそういうことに取り組めるまでに育ったというのもありますよね。
ようやくお客さんにどう見えるかまで考えられるようになったという(笑)。今までは飛行機が大気中をウロウロしていたのが、やっと空気の薄いところまで飛び出してきたというか。
谷村
そうですね。それで、岩田と二人で東京の糸井事務所に出かけていって、話し合いの時間を持ったんですよ。
糸井
ふだんから岩田さんや谷村さんとはよく連絡をとりあってましたけど、ハル研についてあんなにさんざん話をしたのは初めて(笑)。これからハル研をどうしたいのか、というだけでなく、10年20年さかのぼった話までして…年表づくりみたいな作業で、あれはあれで楽しかったですね。
谷村
ハル研の強み、アピールポイントは何なのか、ということで、ハル研が今まで作ったものは何なのか、というところから話を始めましたね。電子手帳とコンピュータをつなぐツールとか、コンピュータから直接ファックスできるハードとか、テレビもステレオもひとつのリモコンで操作できる万能リモコンとか…。
糸井
そうそう、万能リモコン!!あれ、僕はすごく気に入っていて、「いいリモコンがあるんですよ」って、まわりにさんざん勧めてたんですよ。ただ、あのリモコンって面倒くさいんですよね。リモコン使う人って基本的に面倒くさがりなわけなんだけど、あれをいろんなものに使えるようにするまでにはものすごく面倒な入力をしなくちゃならない。一度入力作業をしてしまえば、あとはすごく便利なんだけど。
谷村
実はあのリモコンのアイディアを出したのは私なんですが(苦笑)、あれはオーディオやビデオのマニアを対象としていたんですね。だから、多少面倒くさい入力でもしてくれるだろう、と。確かにあれは普通の人に使ってもらってもよかったものなんですけど、当時はそういう発想がなかった(笑)。そのあたりのインターフェースをちゃんとすれば、マニアだけでなく、もっとたくさんの人に使ってもらえるという発想はなかったんですね。

糸井
だから、昔のハル研というと、そのリモコンのイメージ(笑)。最近のハル研はさすがにそんなことはないけど、でも、マークを決める頃にはまだ昔のハル研のしっぽを引きずっているところはあったかな。不器用なんですよ。いいものを作っていれば、黙っていてもわかってくれると思っている。だけど、本当にいいものは伝えないといけないんですよね。その辺の意識を洗い流す作業は必要だと思いました。
谷村
シンボルマークのキーワードはわりとすんなり決まりましたよね。
糸井
「つなぐ」というのがキーワードですね。長くつなぐ、太くつなぐ、濃くつなぐ…いろんなイメージがあるんだけど、とりあえずハル研はつなぐ会社になりたい、と。あと、育てるというイメージも盛り込みたい。会社、人材を含め、ふくよかに育てる会社になりたい、ということですね。
谷村
最初に「つなぐ」というキーワードを聞いたとき、どんなマークができるんだろうと思ってたんですよ。私の頭ではクリップとかそんなものを想像していて。それがまさか「犬」と「たまご」とは!
糸井
実はこのイメージは20年くらい前から持っていたイメージだったんですよ。犬とたまごって異種のものですよね?でも、犬が温めたって、うまく温めていればたまごはちゃんと孵る。そのたまごからは鳥が生まれてくるかもしれないし、何かもっと別のすごいものが生まれるのかもしれない。何がでてくるかわからなくって、いろんな可能性が秘められているわけですよ。温めているのはアイディアであったり人材であったりもするわけだし。でも、当時はそれにピッタリくる会社がなくて、このマークを使ってくれる会社をずっと待っていたんですよ。だから、この話が来たときは「やっと現れた」と思いましたね。

谷村
最初に糸井さんにこのイラストを見せられたとき、「これはいい」と思いましたね。実は、たまごにこういった意味がこめられている、とかそういう話はまったく聞いてなかったんですけど。
糸井
あれ、話しませんでしたっけ?(笑)
谷村
ええ(笑)。でも、この犬に込められた意味や、犬が寝ている巣の意味は説明がなくてもすぐに伝わってきましたから。
糸井
この巣はいろいろなものが集まっているというイメージなんですよ。巣って木の枝ばかりじゃなくて、場合によってはハンガーの針金とかも入っている。そういうなんかとんでもないものも入っているんですね。
谷村
犬には親愛とか、温かな雰囲気っていうのも込められているんですよ。
糸井
そうですね。犬ってペットだけど、大昔から人間の仲間だったんですよねぇ。まあ、猫だとたまごなんか放っておいて、どっかに行ってしまいそうな雰囲気がありますからねぇ(笑)。

谷村
「スマブラ(注:ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ)」からゲームの冒頭に犬たまごを入れたんですけど、ユーザーの方からも「あの絵は何ですか」という問い合わせがありましたから、まずは注目されてきているということじゃないでしょうか。これからはいろいろな所にマークを入れて、これを目印にお客さんに期待感を持ってもらえるようになれるといいと思いますね。もちろん、その期待にしっかりと応えていけるよう、これまで以上に頑張っていきますよ。変化と挑戦は、常に忘れずにいたいですね。
糸井
今の時代ってお煎餅屋さんが洋菓子を作ったりすることもあるし、専門区域ってどうなるかわからないと思うんですよね。だから、ベースになる思想や知識があるうえで、野球で野手がカカトを浮かせて左右どちらにも行ける姿勢をとるように、いろんな方向に行けるようにしておくことが必要だと思いますね。やはり何をしでかすかわからない、というスタンスがないと、その会社ならではのものはできないと思いますから。
谷村
既成概念を捨てろってことですね。
糸井
ええ。「こだわり」って「硬直」ですから。今までは「こだわりの○○」というのがもてはやされてきたけど、これからは恥ずかしいことになるんじゃないかな。それより身軽に、頭は柔らかく。

谷村
そうですね。それこそ「犬」と「たまご」の発想のように。それでいて思いやりがあって、誠意がこめられているもの…。私はそこだけは「こだわり」たいのですが(笑)。
糸井
ええ、そこはこだわってください(笑)。
糸井重里氏
コピーライター。「ほぼ日刊イトイ新聞」を主宰。1993年「Mother2」の制作を通じてハル研と出会う。
1995年6月~2001年6月ハル研究所取締役。